アンビヴァレンツな感受性
~「リュシー・ロシェ展」によせて~

わたしたちの周囲では、いつもどこかしらで、新しい建物が建設途中だったり、古い建物が解体されたりしている。リュシー・ロシェは、そのような建築現場に観察の目を向ける。作業工程を分析する建築作業員や、進み具合を確認しにきた建主の見方とは異なり、リュシー・ロシェがそそぐ視線は、ある距離をたもって、より抽象的な部分、つまり状態がいつも変化していて、つねに過渡的な状態にあるという、建築現場特有の性質に向けられる。そして止むことのなく変化する現場の状況をとらえる彼女の視線には、ある種の不安がともなっている。

不安とは、つかみがたい感情だ。何かをしたいという意志と、恐れとの間に挟まれたときに、わたしたちは不安を感じるように思われる。意志が行動を可能にし、恐れがそれに歯止めをかけるとすれば、不安とは、流動的な要素に対して、あえて何かを決断しようとする、すわり心地のよくない事態と結びついているのではないだろうか。このとき、外の世界で繰り広げられる原因と結果の連鎖にたいして、わたしたちの感受性はこの上なく研ぎ澄まされる。

フロイトは、精神分析家が美学的研究をやってみたいという気持ちにかられることは滅多にない、と前置きしながら、美学的モチーフとなりうる感情としてunheimlichをとりあげている。このドイツ語のニュアンスは訳しにくく、フランス語では「inquiétante étrangeté(不安をいだかせる奇妙さ)」と訳された。日本語訳は「不気味(無気味)なもの」である。unheimlichは、heimlichに否定の接頭辞un-がついたもので、heimは「家」「家庭」のこと。heimlichは、「馴染みのもの」「居心地の良いもの」という意味と、「秘密の」「隠された」という意味をもつ。したがってその反意語のunheimlichは、「不気味なもの」をあらわすのだが、なぜか馴染みのものや親密な気持ちとも結びついて、馴染みのものと、その逆の不気味さとが、混ざり合った感情をあらわすという。

「そういうわけで、heimlichは両価性(アンビヴァレンツ)に向けて意味を発展させてきた単語であり、最終的には、その反意語であるunheimlichと重なり合うまでになる。unheimlichであるとは、どのようにしてか、ある種heimlichであることなのだ。」(『フロイト全集17』「不気味なもの」岩波書店p. 16)

この奇妙な感情は、なにかの拍子に顔をだす。フロイトがあげる例は、同じ数字が繰り返しあらわれて何かを告げているようにおもわれるとき、人形がまるで生きているように見えるとき、頭の中で想像したことが現実に起こってしまっ